そうやって彼女は異世界に行ってしまった 序章

 

 こんなことを急に言ってしまうと、信用されないかあるいはまったく信用されないかのどちらかであるが、僕は以前、異世界に行ったことがある。

 僕はどちらかといえば、しゃべるのが好きで、仲間内で集まるとどうすればその場にいる人間がいかにスムーズで話しやすい雰囲気にできるかを模索するタイプである。そういった存在は重宝がられるらしく、ほかの人たちのことはよくわからないが僕は自分のことを孤独な人間だと思ったことがない。人の話はなるべくよく聞こうとするし、興味のない話でもなるべくおもしろいポイントを探して話題性を広げる努力をする。何人かグループになって話していない人間がいたら、そちらに自然と話題を振ってなるべく孤立させないようにする。状況を読み取って、話題が堂々巡りや水掛け論になりそうなときはそれとなくテーマを変えて盛り上がる方向に持っていく。まぁ、ときには不測の事態もあったりするし、手に負えないことにも遭遇したりするのだが。

 そういうわけだが僕はなるべく自分が異世界に行って自らが体験したことをおおっぴらと人に話すこともない。現代に生きるものとして、僕が体験したあの中世ヨーロッパ的な世界の体験は、ちょっと手に負えないし、下手したら病院送りにされてしまう。毎日を穏便に暮らす僕としては、あの異世界での体験は自分の中で墓場まで持っていく事柄として胸の奥にしまい、代わりに僕はそれまで所属していたパソコン部を辞めて、みずからあたらしい部を立ち上げた。「ウェブデザイン部」を作り、そこで自身のサイトを立ち上げ、投稿小説として自身の体験を綴ることにした。それが僕が高校2年生の夏のときだ。以前パソコン部にいた仲のいい連中を何人か誘って、暇そうなオタク性質が十分認められる顧問を見つけて、僕が部長となってその活動を盛り上げた。僕の書いたラノベ風小説「借金勇者」は、そのユーモア性とどこかリアリティを感じる部分がウケて校内だけでなく、校外の読者の獲得にも成功している。教師たちもほとんどが「なかなか面白いぞ」とか「続きを楽しみにしているぞ」との声をもらっている。演劇部からの、文化祭の題材にしたいから脚本協力をしてくれとのオファーもきた。まさに校内名物というやつである。だれもまさか僕が実際に体験したこととはつゆにも思っていないだろう。僕だってもしかしたらあのときの体験は夢だったのかもしれない、なんて思ったりもする。脳が勝手に作り上げた幻想だと思ったりもする。もしすべての人間の記憶が5分前に作られたと断定されても、僕はやっぱりあの異世界での体験は自分が実際に体験したことであるとハッキリと感じることができる。あれは幻なんかじゃないって。

 しかし僕の平和的な生活は突如一変した。

 守屋ゆうかが異世界に行ってしまったのだ。

 そして彼女は、その世界で英雄としての運命を引き受けてしまった。僕は彼女を止めることができなかった。彼女は自分自身でその選択をしたのだ。誰の意見も聞かず、誰の助けもなく。

 そうやって彼女は異世界へ行ってしまったのだ。


 「借金勇者」というネーミングは、もうすこしなにかいい案がないでしょうかねー。英語にしても、ドイツ語にしても、いまいちピンと来ないんですよ。

 まぁ、僕だったら本屋の棚に「借金勇者」ってあったらおもわず手にとってしまうかもしれませんが。しかしいかんせん、響き的にダサいw もっとなにかないですかー。

 でも、まぁ本編はなかなかおもしろいと僕は思うんですけどね。

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